- 2026年9月17日
薬学部を卒業したら、薬局か病院で薬剤師になる。そんなイメージを持つ人は多いかもしれません。実際には、6年制と4年制で進路の分布は大きく異なり、大学院の位置づけも同じではありません。
2025年3月卒では、6年制卒業者の進学率は2.3%、4年制卒業者の進学率は76.9%でした。 同じ「薬学部卒」でも、分母を分けないと実態が見えません。[1]
この記事では、制度改正前から現在までの変化を確認し、6年制卒から博士課程へ進む割合と、博士修了後の年収をどう比較すべきかまで整理します。
最初に、4年制と6年制の違いを整理する
2006年度から、薬剤師養成を主目的とする課程は6年制になりました。現在、薬剤師国家試験の受験資格は原則として6年制学部・学科の卒業者に与えられます。4年制は、大学院へ進み、創薬研究や開発など多様な分野で働く人材の育成を想定した課程です。[2]
| 課程 | 標準修業年限 | 卒業後の主な進路 | 大学院とのつながり |
|---|---|---|---|
| 6年制・薬学科 | 6年 | 薬局、病院、ドラッグストア、行政、企業など | 卒業後は主に4年制の博士課程へ進む |
| 4年制・薬科学科など | 4年 | 大学院進学、製薬・化学系企業、研究・開発など | 修士課程2年、その後に博士後期課程3年が一般的 |
| 制度改正前の旧4年制 | 4年 | 薬剤師、企業、大学院など | 当時は学部卒で国家試験受験資格を得られた |
「4年制を卒業してから実務実習を足せば、いつでも薬剤師になれる」という制度ではありません。経過措置は2017年度までの4年制入学者などに限られ、個別の要件があります。[2]
制度改正前は、学部卒の約3割が大学院へ進んでいた
2006年3月の旧4年制学部卒業者では、進学28.9%、薬局27.2%、病院・診療所の薬局14.2%、製薬会社8.1%、一般販売業6.0%でした。[3][4]
当時の学部卒には、薬剤師を目指す人と研究を目指す人が同じ4年制課程に含まれていました。そのため、現在の6年制だけ、または4年制だけと単純に並べることはできません。
制度改正後は、臨床を中心とする6年制と、研究を中心とする4年制に入口が分かれました。2010年3月に卒業した新しい4年制の第一期では、972人中895人、約92%が大学院へ進みました。[5]
最新の6年制は、薬局系45.7%、病院21.0%
薬学教育協議会の2025年3月調査では、6年制卒業者9,233人の進路は次のようになっています。[1]
| 2025年3月・6年制卒 | 人数 | 卒業者に占める割合 |
|---|---|---|
| 保険薬局 | 2,549人 | 27.6% |
| ドラッグストアの調剤部門 | 1,672人 | 18.1% |
| 病院・診療所の薬剤部門 | 1,944人 | 21.0% |
| 企業(医薬品関連・化学系・その他) | 894人 | 9.7% |
| 行政 | 188人 | 2.0% |
| 進学 | 212人 | 2.3% |
保険薬局とドラッグストアの調剤部門を合わせると45.7%です。2006年の「薬局27.2%」と比べると薬局系の比重が増えていますが、分類方法が変わっているため、45.7-27.2の差をそのまま増加幅とは扱えません。
企業894人には、開発・学術、MR、研究・試験・製造、営業など複数の職種が含まれます。「製薬企業へ就職した」と「研究職になった」は同じ意味ではありません。
最新の4年制は、76.9%が大学院へ進学
2025年3月の4年制卒業者は1,133人で、進学者は871人、進学率は76.9%でした。[1]
| 2025年3月・4年制卒 | 人数 | 卒業者に占める割合 |
|---|---|---|
| 進学 | 871人 | 76.9% |
| 企業(医薬品関連・化学系・その他) | 116人 | 10.2% |
| 就職した者のうち給与判明・不明 | 221人 | 19.5% |
| 非就職・未定 | 41人 | 3.6% |
就職者と進学者などは重ならない区分ですが、企業116人は就職者の内数です。4年制卒の多くは修士課程へ進み、研究・開発職などへの準備を続けます。4年制から直接、薬剤師として薬局や病院へ進む課程ではないことを押さえておきましょう。
6年制卒から博士課程へ進む割合は2.3%
2025年3月の6年制卒業者9,233人のうち、進学者は212人でした。進学率は、212÷9,233×100=2.30%です。[1]
6年制卒業者が進む大学院は、主に標準4年の博士課程です。文部科学省は、2021年度の進学者を138人、卒業者の1.4%としていました。[6] 2025年は2.3%まで上がりましたが、100人に2人ほどという小さな割合です。
博士課程を選ぶ理由には、大学で教育・研究を続けたい、臨床上の問いを研究したい、製薬企業の研究開発へ進みたいなどがあります。一方で、4年間の生活費、授業料、研究時間、奨学金、就職時期の遅れも検討が必要です。
博士修了後は、大学・研究機関と研究開発が中心
2025年3月に、6年制学科卒を基礎とする博士課程を修了した人は119人でした。主な進路を修了者119人で割ると、次のようになります。[1]
| 博士修了後の進路 | 人数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 試験・研究機関・大学 | 41人 | 34.5% |
| 医薬品関連企業の研究・開発 | 27人 | 22.7% |
| 病院薬剤部 | 19人 | 16.0% |
| 保険薬局 | 7人 | 5.9% |
| その他の企業・行政等 | 14人 | 11.8% |
| 非就職者 | 11人 | 9.2% |
博士を取れば研究職に必ず就ける、年収が必ず上がるという結果ではありません。勤務地、任期の有無、職位、企業規模によって働き方も収入も大きく変わります。
博士修了者の年収は「就いた職種」で見る
「薬剤師免許があり、薬学の博士号を持つ人」だけを抜き出した公的年収統計はありません。そこで、博士修了後の代表的な進路に近い職種の2025年賃金構造基本統計を参考値として並べます。[7]
| 公的統計上の職種 | 平均年齢 | 推計年収 |
|---|---|---|
| 薬剤師 | 40.1歳 | 566.8万円 |
| 研究者 | 42.5歳 | 802.0万円 |
| 大学講師・助教(高専含む) | 41.6歳 | 712.2万円 |
| 大学准教授(高専含む) | 49.3歳 | 876.4万円 |
| 大学教授(高専含む) | 57.5歳 | 1,082.6万円 |
推計年収は「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額」で計算しました。研究者には薬学以外も、大学教員には高専も含まれ、博士修了直後の初任給ではありません。平均年齢も異なるため、博士号の収入効果を示す比較ではなく、進路ごとの職業全体の参考値です。
博士課程在学中は原則として学生です。奨学金、研究奨励金、TA・RA、社会人大学院としての給与などは制度が異なるため、「博士課程の年収」と一括りにしないようにしましょう。
進路を決める時は、5年後にしたい仕事から逆算する
- 薬剤師として早く臨床経験を積みたい:6年制卒後の薬局・病院・行政を比較する
- 創薬研究を中心にしたい:4年制から修士、必要に応じて博士後期課程まで考える
- 薬剤師資格と研究を両立したい:6年制卒から4年制博士課程の研究室、生活費、修了後の職を確認する
- 製薬企業に入りたい:企業名だけでなく、MR、開発、薬事、安全性、研究など職種を分けて調べる
大学全体の割合は、自分の大学や研究室の進路を保証するものではありません。候補の大学院では、修了者の進路、学費、支援制度、指導体制、任期付きポストの割合を具体的に聞くと、判断しやすくなります。